交換会(業者競売会)に出席する方々とは顔馴染みになる。
慕う先輩や目を掛ける後輩もでき、親しい仲間となる。
競りは“ガチンコ勝負”であるから、仲間との競り合いになることもある。
競り負ければ、己の非力を痛感するし、価格を競り上げたことになるから、
競った相手には申し訳なさも残る。
競り勝って落札した場合でも何やら申し訳ない。
勝っても負けても「ごめんなさい」となる。
出品者も仲間の場合があって、希望価格以上の落札額となれば良いけれども、
希望価格以下の場合もあるので、なおさら申し訳ない。
「作品に対して一番、愛情を持っている人が落札しよう。」
とは、師匠の言葉である。
師弟や仲間であっても遠慮なく競り合わなければならないのであるが、
それは師匠に競り勝たなければ、良いものは落札できないということでもあった。
師匠は強い。武勇伝を聞き始めたら切りがない。
競り方、買い方が綺麗なのである。
普通、誰もが少しでも安価で落札したいから、
価格は少しずつ上げていくわけだが、
師匠は綺麗に飛んで買うのである。
「一万円!一万五千円!二万円!」が普通で、
師匠は「一万円!一万五千円!五十万円!」といった具合である。
潔白で心地よい。
先日、「あの頃が一番楽しかったね。」
と、師匠がポツリと言った。
全国の書画商の一流どころが集う、東京で開かれる書画の交換会へ、
師匠と兄弟子と私の三人で出席していた頃のことである。
兄弟子のKさんとは、お互いの苦労を分かち合い、切磋琢磨してきた。
知識も経験もお金も無く、生活に余裕があるはずもなかった頃、
時間だけは持て余していたから、四六時中、一緒にいて、
語り合い、喜び合い、笑い合い、競い合って、
近い将来のお互いの成功を期待した仲間である。
大人になってこれほど長い時を共有し、
同じ道を歩む存在を得ることができた私は幸せである。
感謝してもしきれない。
明日も明後日も“ガチンコ勝負”である。